下駄箱のサンタクロース

私が包装や梱包材に興味をもったのは、幼い頃でした。なんとなく、箱を開ける瞬間が好きなのです。プレゼントをもらった瞬間、飾りをほどき、包装紙を剥がし、BOXを開けると現れる、プレゼントが、本当に輝いて見えるんです。どんな年齢になっても、贈り物を開ける瞬間のワクワクが、私の原動力となっているというのは言い過ぎのようですが、本当に、この世の宝石を集めた宝箱を開けるような気持ちで、毎回、サプライズを期待しています。1つ下の妹は、正反対の性格で、幼い頃から物をもらうという事が大嫌いという、なんともかわい気のない幼子でした。その代り一度、気に入った物があると、丁寧に扱い大事にするというのが常でした。ですが、妹のようなプレゼントをもらっても、喜んでその場で開けもしない子どもに周囲は、だいぶ手を焼いているように見えました。サンタクロースに、プレゼントをおねだりしない子どもがいる事を、どう、世間は思うのでしょうか?クリスマスのイブに、妹は、身の回りに豊かなものがあるので十分だと言うのです。なんとも仏のような心をもつ妹に、私は、プレゼントをたくさん欲しがる欲深い姉にとして、映っているようで、子ども心に常に損をした気分でありました。そんな姉妹が成長するうちに、個人としてのアイデンティティを気付く思春期に差し掛かかりました。異性からのプレゼントなどに、興味を抱く乙女心というものが芽生え始めます。妹は、姉の私に似て美しい娘に育ち、クラスのマドンナ的な存在になっていました。そんなマドンナを、クラス中の男子は放っておきません。決戦は妹の誕生日です。取り巻き男子のプレゼント攻撃が始りました。妹に好意を寄せる、学内の中学生男子が、よかれと思い、妹の下駄箱やロッカーに、手紙付きのプレゼントを入れておきます。幼い頃から、あれだけ、贈答の品々を断ってきた妹です。どんな行動を取るのか、私達家族は、固唾を飲んで見守っていました。ついにやってきた妹の誕生日当日、彼女は、なんと、あの大嫌いなプレゼントを自宅に持ち帰ってきたのです。様々な色取りどりの包装紙に包まれたプレゼントを抱えた妹は、迷惑そうな顔をしているのかと思いきや、にこやかにほほ笑んでいます。家族はなんとなく、妹の様子に安堵していました。やはり、プレゼントをもらって、ニコやかにしている乙女は良いものです。ヨカッタねと、私たち家族は、お互いに声を掛けました。彼女は、物心ついた頃から、プレゼントを断り続けてきたから、サンタクロースが、一気に下駄箱やら、ロッカーにプレゼントを押し込んでいったと笑っています。なんとなくお姉ちゃんが、プレゼントを開ける時に、喜ぶ意味が分かってきたと話します。そんな妹は、今年、4年制の美術学校を卒業し、包装や梱包の素材をデザインし、製造する会社へ就職する道を選びました。実は、私と同じ会社への入社となります。食わず嫌いとは言いますが、プレゼント嫌いの妹の心境の変化は、なんと表現して良いのか分かりません。同じプレゼントでも、素敵な包装や梱包がほどこされていると、全く違う印象になるものです。包装にはそんな力があります。妹は、職場のデザイン室で、常に包む装飾について、考えその意をどう未来に繋げていくのかという研究に明け暮れています。ラッピングとは、気持ちを人に伝える為に、生み出す造形なのだそうです。そんな風に考えた事はなかったので、当たり前のように、プレゼントには包装をほどこしていました。プレゼント嫌いだった妹が未来に繋げたい、包装の形とはどんなものなのか楽しみで仕方ありません。

下駄箱のサンタクロース
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